路上の金庫ねらい
穂高刑事課長(仮名)は電話のけたたましい呼出し音で、たたき起こされた。平成7年3月8日午前1時ごろの出来事である。寝入りばなを起こされたのでボーッとした精神状態のまま受話器を取ると、いきなり当直班長の慌てた声が飛び込んできた。
「課長!ただ今、自動販売機荒しをしていたと思われる外国人2人と日本人1人を任意同行しましたが自供しません。至急出署してください」
(中略)
3月7日午後11時45分ごろ、交通安全協会の役員を務めている青森さん(仮名・43歳)は市内で友人と飲酒した後、帰宅するため一人で国道を歩いていた。国道沿いの宮城商店(仮称)駐車場付近に差しかかったとき、そこに設置されている自動販売機の前に不信な人影を見かけた。外国人らしい二人の男で、その態度から何か盗みをしようとしている様子が見られた。青森さんは、早速、所持していた携帯電話で否警察署の当直へ速報した。
この通報の内容は、「自動販売機の前に一見して外国人と分かる男が2人いて、背の高い男が自動販売機に千円札を入れてはひき出す動作を繰り返し、一方の男はかがんだ姿勢でつり銭口から何かを取り出している。彼らは彼らは青森さんが通りかかっても一向にやめようとしなかったが、通り過ぎてから振り向くと国道から駐車場に入ってきた白色の乗用車に乗り込み、近くのセブンイレブンに入った。乗用車のナンバーは松本××に3456である。いま、見張っているから直ぐ来てください・・・・・・」ということであった。
(中略)
二人とも帰国を考えて、旅費や当座の生活費を作る方法を模索していた。こんな時、もう直ぐ帰国するという友人がやって来て、ビニールテープで細工をした千円札を使う自動販売機荒らしのテクニックを教えてくれた。
ロー・ソイ・オン(仮名・32歳)とリュウ・キン・ファン(仮名・26歳)は、仕事を探すため都内をうろつくうちに顔見知りとなり、親しく話をする仲になった。仕事がなく、旅費もない・・・・・・という同じ境遇にあったから、友人に教わった方法で自動販売機荒らしを共同でやろうと決心した。二人は折半で3万円を工面し、ビニールテープで加工した千円札と作成に必要な紙型や飯田市の地図等を購入した。素早く盗み回るには機動力が必要ということになり、以前、県内の工事現場で顔見知りになった森田光一(仮名・35歳)に飯田市への運転を頼み、本件犯行に及んだというのである。
当初、”日本語はわからない・・・・・・”と言ってしらばっくれていた外国人2人も、情理を尽くした取調官と通訳の前に犯行状況などを全面的に自供した。この夜の犯行によって飯田・伊那両市内の様々な自動販売機の中から、つり銭用の五百円玉など約35万円の現金を盗んでいたことが判明した。被疑者らが完全に犯行を認め、取調べが順調に進む中でリュウ・キン・ファンは、「なぜ、日本人は金庫を道路に置くのか」と質問し、取調官を苦笑させた。
自動販売機は、現金や商品の入ったまさしく”金庫”である。外国人の目には日本人が金庫をしまわずに戸外に置くことが不思議と映るらしい。仕事がなくなり、金の入る当てのない二人は、帰国する友人から金庫(自動販売機)のある場所をマークした地図とビニールテープで加工した千円札を買い取り、悪いと十分承知しながら盗みを繰り返し、帰国するための旅費を稼いでいたのである。なぜ、長野県を狙ったのか?・・・・・・というと、都市部では大勢の外国人たちが同じ手口で金庫(自動販売機)を荒らし回ったため部品が取り替えられてしまい、犯行が困難になっている。そこで、警戒が薄く部品を交換していない田舎を狙ったのである。外国人被疑者2人は事件処理後、強制送還された。今ごろ、母国で真面目に暮らしているか、また、どこかの国へ出稼ぎに行っているか、もしかして日本に舞い戻っているかもしれない。
外国人の視点から観察すれば、通常、我々の見慣れた自動販売機も”路上に置かれた金庫”と見えるのかと感心する。それぞれの国情等の違いによって物の見方や考え方も相当違ってくる。本件を通じて国際社会の一部を垣間見た思いがした。この犯人たちは道路端にごろごろ転がっている金庫から自由に現金を盗み取る愉快な気分に浸り、まさに、怪盗ならぬ『快盗』ではなかったか!・・・・・・。
(後略)

私が読んでいるこの本は、「捕物秘話 長野県防犯実話集第14集 『路上の金庫ねらい』」(平成11年8月1日発行 非売品)

新聞記事ではほんの数行の事件が、きっちりと掲載されたこの本は、平成11年度に11年ぶりに発行されました。
外国人による自動販売機荒らしが吹き荒れたころのことがしっかりと記載されていて、貴重な資料であります。
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by epole | 2008-09-07 06:19 | 小説にみる自販機


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