星新一さんと自動販売機
a0003909_6536.jpgぽんやりと、薄暗さだけがただよっていた。動くもの、なにひとつない。無意味な静止のままだった。だから、時も流れない。
どこからともなく風が吹いてきて、天地をわけた。それが、すべてのはじまりである。天は上に、地は下にと存在するようになった。しかし、地上は平坦で、遠くまで、なにひとつない。ただ、風が動いているだけ。
時がたち、風は地面の上のカードと出会った。長方形で、薄いもの。風はそれを吹き上げ、空中を舞わせた。このようなものがあるからには、どこかに、これと関連のあるものがあるのではないか。
風に思考力があるわけではないが、長い長い時間は、それにたどりつかせる。小さな竜巻きとなってさまよい、カードはひらひらと舞いつづけた。そして、ついにそれを地上に見いだした。もちろん、名称などない。しかし、はるかのちの言葉で形容するとなると、自動販売機といったあたりが、適当なのではなかろうか。本質的には、はるかに神秘なものだが。
風の力でか、カードが目ざめて意志を持ったのか、その一部に入りこんだ。
販売機の下の口から、水が流れ出し、川となって流れ、遠くまで伸びていった。それは、たまって海となる。海のはてから、太陽がうまれ、月もうまれた。
(星新一著 「風の神話」)

星新一さんと自動販売機については、このブログでも「ほら男爵現代の冒険」に登場する自動販売機について紹介をしたところです。その後「文学者掃苔録図書館」という素敵なホームページで、「風の神話」の存在を知りました。
このたび青山墓地にある星新一さんの墓を訪れる機会を得、このブログにも掲載をさせていただきます。
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by epole | 2008-08-14 06:13 | 小説にみる自販機


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