「ハリガネムシ」の自動販売機
駅に向かう道を、会社帰りのサラリーマンや買い物帰りの主婦たちを縫って無言で歩く柴田女史に、半歩遅れて随いていった。駅前はごった返していた。食事にでも誘われるかそれともお茶かと思っていると、定期券を取り出した柴田女史が振り向き様に「あんた馬鹿じゃないの」と言った。うっすらと汗ばんだ彼女の裸の腕を、駅前のパチンコ屋のネオンがゆっくりと舐めていった。うっとりとしながら「馬鹿かも」と思い、人の背に埋もれていく彼女の後ろ姿を見送りながら、切符を買わねばならない私は券売機の前に取り残された。

わたくしが読んでいるこの本は、
吉村萬壱著 『ハリガネムシ』(第129回芥川賞受賞作)平成15年上半期

JR東日本がSuicaを開発、導入したのは平成13年11月18日。現在では携帯電話アプリでの利用や私鉄などとの相互利用がすすみ、近い将来には、この文章も、ずいぶん読み手の印象が変わってくることだろう。
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by epole | 2008-04-06 04:21 | 小説にみる自販機


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