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「愚者の夜」の自動販売機
犀太はおしよせる怒りの波に足もとをすくわれた。乱れをつくろって早く立ちなおろうとするのだが、くりかえす波は容赦しない。自動販売機に硬貨をおしこむ手はふるえていた。ジニーはその肩をつき、右手を拳にして殴りかかるポーズをつくった。眼が坐っていた。
空いた電車のなかを捨てられた新聞が忙しそうにとびまわっていた。むかいに坐る、つま楊枝をくわえた男の足もとに視線を落としたジニーは両手で手すりをつかんでのりかえの駅にきても立とうとしなかった。犀太はきつい言葉で命令し、憎しみの力をこめてひきずりおろした。

わたくしが読んでいるこの本は、
青野聰 著 『愚者の夜』(第81回芥川賞受賞)昭和54年上半期

前後から読めば、この自動販売機は「切符の自動販売機」なのだな。でも、「切符の自動販売機に硬貨をおしこむ手はふるえていた。」では説明的に過ぎて、犀太の怒りの感情がストレートにど~んと伝わってこない。では「自動券売機」はどうか。
『大辞典(S10.8.10初版一刷発行 S49.6.10覆刻版第一刷発行 S49.10.10覆刻版第三刷発行』では「乗車券販賣器は自動券賣器なる名で呼ばる」としているから、ここで「自動券売機」が使用されてもおかしくはない。ただし、この作者にとって、この呼び方は一般的でなかったようである。
「自動販売機」っていう言葉は、力があるなぁ。
by epole | 2007-05-06 08:07 | 小説にみる自販機


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