「白銅貨の効用」の自働販売器
自働販売器操作の効用
(前略)
十銭白銅貨や五銭白銅貨をもって自働販売器の類を操作させることは、夙に逓信省が公衆電話にて行えるところで、近来は鉄道省も之を切符販売用に用い、専売局は煙草の自働販売器を認め、キャラメル、チョコレートの自働販売器あり、一時は地下鉄の改札までを十銭白銅貨に働く重力によって行ったものである。この外、白銅貨の効用は甚だ多種なるも約束の紙数に達したれば擱筆する。要するに十銭白銅貨は単なる貨幣だとばかり考えている方があったら、それは正に大なる認識不足であると申すべきである。十銭白銅貨は十銭貨幣であると同時に、重量秤であり、標的であり。爪磨きであり、交換手呼出器であり、切符押出機であり、煙草キャラメル押出機でもある。(後略)

私が読んでいるこの文章は「白銅貨の効用」(海野十三著。海野十三全集別巻2 日記・書簡・雑纂(第15回配本)1993年1月31日第1版第1刷発行収録)
本文は、昭和8年発行の「科学画報6」に収録されたものである。

筆者は白銅貨の効用として、次の4つの効用を例示している。すなわち ①分銅としての効用 ②射的としての効用 ③爪磨きとしての効用 ④自働販売器操作の効用 であり、今回引用は④自働販売器操作の効用を論じた部分である。

ここに、自動販売機が日本においてここまで普及するまでの黎明期の道筋が記録されている。すなわち自働販売機は「切符」「煙草」「キャラメル」「チョコレート」の、白銅貨を用いての販売用として使用されたのであります。いま21世紀初頭にみかける自動販売機は「切符」「煙草」「飲料」といったところが多いのだが、昭和8年には飲料の自動販売機はメジャーな存在ではない。

逆説的だが、本文は「自働販売器」の側からでなく、「白銅貨の効用」という視点で自働販売器を論じているのが面白い。自働販売器において無人販売を実現させるのは「自働販売器」の側でなく「白銅貨」なのである。
自働販売器の操作において白銅貨が担う役割は情報である。その重さ、大きさという情報を伝えるものとして、その同質、同形、同重量という性質が自働販売器を正確に作動させ、無人販売を可能とする。
それは現代にそのまま引き継がれ、さらに「白銅貨」又は「紙幣」、最近では「磁気情報等」に組み込まれた特有で同質の「情報」を自動販売機は読み取り、無人販売をおこなっている。
その自動販売機の特性を支えるにあたって、数十年変わらぬ硬貨類の鋳造流通はたいへん大きな位置を占めているのだな。
[PR]
by epole | 2010-09-27 22:42 | 小説にみる自販機


<< 「小學校兒童の自働販賣器」 「党生活者」の自動販売機 >>