「買った買った買った」の自動販売機
さて最近、このコードレス電話機と同じようにぼくと相性の悪い機械が一台、身近に現れた。仕事場のあるマンションの向かいに設置された、清涼飲料の自動販売機である。引っ越してきたばかりの頃はそうでもなかったのだが、ここ三カ月ほどはぼくに対して悪意を抱き始めたようなのである。
この自動販売機は、設置された場所がJT(日本たばこ)の関連施設の脇なので、清涼飲料の銘柄もハーフタイムというJTブランドのものばかりである。あまり見かけないような飲み物が揃っているので、物珍しくて一本ずつ飲んでみたところ”白ブドウ100”という微発泡性の炭酸飲料が意外なほど美味しいことを発見した。以来、しょっちゅうこの炭酸飲料を買っているのだが、とにかくトラブルが多い。まず一番最初は、確かに”白ぶどう100”のボタンを押したのに、商品取出口には缶コーヒーが落ちてきた。これはまあご愛嬌として許してやってもいいが、その一週間後くらいに、今度はお釣りの九十円が出てこないという凄惨な事件が勃発した。九十円と言えば、あと二十円足してもう一本購入できる金額である。百三十円足せばもう二本購入できる金額である。そういうふうに考えるとこれは大きい。大きいだけに悔しい。
その後も、記憶しているだけでも三回、お釣りが戻ってこないことがあった。それ以外にも、投入口へ硬貨を入れ損なって自動販売機の下へ転がってしまったことが二回もあったりして、まことに腹立たしい。文句を言おうにも、たいていの場合が夜中だったりするものだから、怒りのハケ口が見つからなくて尚更腹立たしい。これはもう機械と自分との相性が悪いのだと、無理にでも思わないことにはやり切れないではないか。


わたくしが読んでいるこの本は、
原田宗典著  『買った買った買った』収録『複雑な清涼飲料』(1992年12月15日印刷 1992年12月30日発行)

わたくしが”SECOND LIFE”内でイケ面の自動販売機オペレーター”epole Tomorrow”となり、このコミュニティゲームに海外から参加する皆さんに訊ねたところでは、彼らの自動販売機への印象と言えば、「すぐ故障する」というもので、彼らの多くが釣り銭が出てこないという状況を経験していたように思う。原田氏が1990年当時に馴染みのJTの清涼飲料の自動販売機に抱いた印象は、現在の海外の利用者のもつ自動販売機への印象と重なるものがある。

それにしても、立派に仕事をこなす自動販売機よりも、たまに商品を間違えたり、おつりが出てきなかったりする自動販売機がこんなに愛しいのはどうしてなのだろうか。
それは、彼がたまにお釣りを多く返してくれたりするだけではなく、いわゆる”出来の悪い子ほどかわいい”といった気持ちが利用者の意識の下に働くからなのではないか。
自動販売機があまりに正確に確実に作動する機械だとすると、あまりに冷たくて怖い感じが私にはするのだな。
[PR]
by epole | 2010-08-24 00:16 | 小説にみる自販機


<< 「健康のため吸いすぎに注意しま... ようやくエコーバレーの結婚式場に到着 >>