「アンテナ」の自動販売機
その日は彼女の仕事が休みの日でさ、二人で買い出しに行って、刺し身だの鶏肉だのたくさん買い込んで、ビールを冷蔵庫に冷やして、のんびり一杯やろうとしていたんだ。あいつは唐揚げが好きな女でさ、山盛り揚げるんだよ、油がはねて火傷しながら。俺は、タバコが切れたのを思い出して、タバコ買ってくるわ、って、部屋を出たんだ。当時は西新宿の狭いマンションに住んでた。タバコ屋はマンションから三十メートルほどのところにあった。自動販売機でタバコを買って、だらだらと部屋に戻ってきた。台所からはプチプチと油のはねる音がしていた。俺は冷蔵庫を開けてビールを取り出し、先に一杯やってるからな、と声をかけた。返事はなかった。

私が読んでいるこの本は、
『アンテナ』(田口ランディ著  2000年10月31日第1刷発行)

タバコっていうのはほぼ価格が固定しているから、海外旅行で免税品を求めたり、パチンコで中途半端に出玉が残ったり、あるいはデパートでよほどきれいなおねいさんが販売していない限り、小売店で、他の食材とともに購入することはなさそうだ。特に近くに自動販売機がある場合には。

ここで「マンション近くにある」と認識されているのは「タバコ屋」である。しかしながら、当時「俺」がタバコを購入するのは「自動販売機」からである。

10年後、2010年の今では、タバコ屋の存在に関係なく、さまざまな場所に、店舗前にタバコの自動販売機は存在している。
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by epole | 2010-05-16 21:17 | 小説にみる自販機


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